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38   壁に貼られた一枚の写真 

5月17日(月) 00:00

◆壁に貼られた1枚の写真に釘付けになった。写真の中央には、穏やかな表情の黒澤明監督がいる。左斜め後ろには、黒澤作品を支え続けたスクリプターの野上照代さんが。そして黒澤監督の後ろから顔をのぞけているのは…。「な、なんと、台湾の侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督ではないか」

◆KCTワイド内の企画「私の一冊」の取材で、児島のクリエイティブ・ディレクター赤星豊さんの仕事場を訪ねた時のことである。昔はフリーライターで編集者だった赤星さんが、1994年の「月刊プレイボーイ」誌上で企画した「黒澤明・侯孝賢対談」の後の記念写真だったのだ。当時、その対談は「日本と台湾を代表する監督の初顔合わせ」として話題になり、私も読んだ記憶があった。

◆映画ファンならずとも注目した対談を実現させたのが、赤星さんだったのだ。当の赤星さんは、黒澤監督の左隣に、30代だったころの若々しい姿で写っている。5月17日放送した「私の一冊・赤星豊さん」の中でも、その壁の写真はご覧いただいた。赤星さんにとっての宝物にとどまらず、一つの時代を証言する写真に違いないからである。

◆侯孝賢監督の「悲情城市」は、大好きな映画である。台湾社会でもタブー視する空気が強かったという「二・二八事件」を初めて知ることにもなったし、淡々とうねるような映画の流れが深くしみてきたものだ。それ以前の「冬冬の夏休み」や「童年往事―時の流れ」、「恋恋風塵」なども忘れがたい。

◆侯孝賢監督は、黒澤監督が亡くなって7年後の2005年の東京国際映画祭で、黒澤明賞を受賞している。二つの才能が出会った一枚の写真に、エリアの児島で出会えるとは! 久しぶりに興奮した取材となった。さらにうれしいのは、あの1994年の対談が、ことし黒澤生誕百年を記念して出版された「大系黒澤明―第4巻」に再録されたことだった。