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36   二つがうまくいけば幸せに  

4月23日(金) 00:00

◆映画監督の大島渚さんには、一度だけ会ったことがある。「愛の亡霊」(1978年)の公開後のことだったから、もう30年も昔のことだ。「愛のコリーダ」で国際的な評価を高め、続く「愛の亡霊」でカンヌ映画祭監督賞を受賞し、ロックのスーパースター、デヴィッド・ボーイを主役に「戦場のメリー・クリスマス」の撮影に入ることが、大きな話題になっていたころだった。

◆その時の印象といえば、意外と言っては失礼なのだが、礼儀正しく、きちんとした人、というものだった。大島さんといえば、妥協を許さない権力との戦い、激高すると飛び出す「バカヤロー」発言など、映画は支持しても、どうも付き合いづらい人、という“偏見”があった。ところが、20歳近くも年下の私にも、きちんと挨拶してくれるし、丁寧に話をしてくれるのだった。

◆その十数年後に出た大島さんの著書「理屈はいい こういう人間が愚かなんだ」(青春出版社)を読んで納得するものがあった。本の中で「君の名は」などで知られる大庭秀雄監督についていた助監督時代のエピソードを書いている。大庭監督の自宅へ行った日、先輩のチーフ助監督の監督昇格が決まったことが話題になった。大島さんが大庭監督に「彼はいい映画をつくれるでしょうか」と尋ねたそうだ。

◆「つくれるわけがないじゃないか。彼は玄関先のあいさつもできない男だよ」。即座に大庭監督は答えた。大島さんが父親となり、子育てについて考えていた時、よみがえった言葉だそうだ。いわく「子育てで大切なことは、一つは礼儀作法であり、もう一つが質素倹約」。礼儀作法とは人間関係、質素倹約は人間と物との関係のことだ。この二つがうまくいけば「それだけで十分幸せに生きていくことができる」と書いている。大島さんの説く礼儀作法は「まず、あいさつ」と明快だ。

◆4月は、入社、入学、異動と、新しい出会いの季節である。新しい土地で、新しい組織や集団の人間関係に不安も多いだろう。それを切り開いていくのは、自分からのあいさつだ。そして新人に限らず、日々の人間関係の入り口も、あいさつから始まるものなのだろう。