立石おじさん おかやまの昔話

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【第9話】 古屋のムル

昔な、あるところに、おじいさんとばあさんがおったそうな。おじいさんとおばあさんには、子どもがなかったもんじゃから、馬の子を飼うて、子どもとおんなじように可愛がって育てたそうな。梅雨になって毎日、しとしとしとしと雨が降り出した。山に住んどる狼や狐だとか狸だとかウサギだとか猿だとか、動物たちが集まってな、「こう毎日、毎日、雨が降ったんじゃ食うもんがない」「なんか食うもんはないじゃろうか」言うことで相談をしたんじゃな。そうしたら狐が「そういやあ、村にな、おじいさんとおばあさんが、子馬を飼うとる。あの馬を取って食おうじゃないか」「でも、家の中に入るわけにゃいかんが」「いや、ところが古い家でな、屋根は壊れとるし、それに壁も壊れとる。なんぼでも自由に入ることができるんじゃ」「そうか、それじゃったら今晩さっそく行って小馬を取って食おうじゃないか」言うことになったんじゃな。日が暮れて、山から動物たちがやって来て、おじいさんとおばあさんの家に来た。見たら、屋根にも壁にも穴があいとるもんじゃから、そっからみんな入って、納屋の天井裏に上がったんじゃな。「おい、おるおる、あの馬じゃ」「どうやって食うかな」「ここで食うわけにはいかんから、外に連れ出さにゃいけん」「どうやったら、連れ出すことができるかな」動物たちが相談をしておったら、納戸から話声が聞こえる。「おい、待て待て、まだおじいさんとおばあさんが寝とらんぞ。寝静まるまで待とうじゃないか」待っとると、おじいさんとおばあさんの声が聞こえてきた。「おばあさんや、よう雨が降るもんじゃの。こう雨が降ったら今晩もムルが来るかわからんなあ」言うとおばあさんが「おじいさん、そうじゃの、今晩もムルが来るかわからんなあ。虎狼より、ムルがきょうとい言うて、これは、きょうといもんじゃあ」「そうじゃの。虎狼より、ムルがきょうとい言うて、ムルぐらいきょうてぇもんはないの」おじいさんとおばあさんが話をしたんじゃ。それを聞いた動物たちは、「何!今晩ムル言う、虎狼よりきょうといもんがくるぞ」「もし来たら、馬どころじゃない、わしらが取って食われるぞ」「今のうちに逃げんか」言うことで、動物たちは、天井裏からぱあーんと下に飛び降りて、表の戸をあけてタッターと逃げていった。その音を聞いたおじいさんとおばあさん「ありゃ、馬が逃げたんじゃないか。追いかけにゃいけん」言うて、すぐに蓑を着て、綱を持って、鈴を持って、追いかけて行ったんじゃな。そうしたところが動物たちが、ペチャ、ペチャ、ペチャ、ペチャ、ペチャ、ペチャ、ペチャ、ペチャ逃げる。おじいさんとおばあさんが馬に「待て待て、ダァダー、ダァダー、ダァダー、ダァダー」言うて追いかけて行く。雨がしとしとしとしと降る。ペチャ、ペチャ、ペチャ、ペチャ、ペチャ、ペチャ、ペチャ、ペチャ逃げる。おじいさんとおばあさんがダァダー、ダァダー、ダァダーと追いかける。そうすると、おばあさんの持っとる鈴が、チリンチリン、チリンチリン、チリンチリン音がする。着てる蓑が、カサンカサン、カサンカサン音がする。「そりゃあ、ムルが追いかけて来るぞ。逃げー、逃げー」動物たちがペチャペチャ逃げる。おじいさんとおばあさんは、追いかける。しとしとしとしと、ペチャペチャ、ペチャペチャ、ダァダー、ダァダー、チリンチリン、チリンチリン、カサンカサン、カサンカサン、しとしとしとしとピチャピチャ、ピチャピチャ、ダァダー、ダァダー、チリンチリン、チリンチリン、カサンカサン、カサンカサン、追いかけていったんじゃな。動物たちは、ムルが追いかけて来るというんで、一生懸命逃げる。おじいさんとおばあさんが、馬が逃げるというんで、一生懸命追いかける。山の麓まで追いかけていったところが、動物たちは、「どっか逃げるところはないか」ちょうどいいぐあいに穴があいとったもんじゃから穴の中に全部ダーと逃げ込んだんじゃな。おじいさんとおばあさん「さっきまで足音がしとったのに、足音がせんようになった」馬はどこに行ったかな」あたりを探したけど暗ろうてようわからん。「たしかに、こころへんまで来たことは、たしかだから、よし、ここで待っとろう」と言うことで、一休みすることになったんじゃ。おじいさんは、キセルを出してタバコを吸う、おばあさんは、おじいさんのそばに座って待っとった。一方、穴の中の動物たちは、「もう、ムルが追いかけきとらんじゃろうな」「さっきまでの足音が聞こえんようになったぞ」「だれか外に出てみい」「一番すばしっこい狐さん、あんた出て」「いや、いや、きょうてい、きょうてい、こらえてくれ」「だったら、一番強え、狼さん、あんた出てみてくれ」「いや、虎狼よりムルがきょうてい、わしは、狼じゃ、虎狼は負けるんじゃから、わしはよう出ん」誰もあとずさりをして出るもんがおらん。そうしたら、いつもみんなから馬鹿にされとる兎が、「だったら、わしのこの長いしっぽで、外の様子を探ってみようか」「穴の外に出してペロンペロンとふったら、虎狼が来とったらしっぽを捕まえにkるはずじゃ」「もし、しっぽが捕まえられたら、みんなして、わしを引っ張ってくれよ。虎狼に引っ張りあげられたらまなわんからなあ」「ほんなら兎さん、やってみてくれ」そう言われて兎は、長いしっぽを穴の外に出したんじゃ。その当時兎のしっぽは、長いしっぽじゃってな、穴の外に出して、穴の外でしっぽをペロンペロン、ペロンペロン動かしとった。そうしたところが、おじいさんがそのしっぽを見つけ、「ありゃ、馬が穴の中に落ちてしっぽを出しとるぞ。おい、引き上げちゃらにゃいけんぞ。おばあさん」言うてそのしっぽをつかまて、うんとこしょ、うんとこしょ、うんとこしょと引っ張り出した。あわてた兎「そりゃあ、ムルに捕まったぞ。引っ張ってくれ」ほかの動物たちは、耳を持って、よいとこしょ、よいとこしょ、引っぱる。兎は、後ろ足を突っ張ってやあっと我慢しとる。おじいさんとおばあさんがうんとこしょ、うんとこしょ。中では、よいこしょ、よいことしょ。お互いに引っ張りあったんじゃなあ。そうしたら、両方があんまり力入れて引っぱったもんじゃから、長い兎のしっぽが根元からプツンと切れてしもうたんじゃ。おじいさんしっぽをみたら馬のしっぽじゃない、「こりゃほかのもんじゃたの、もう夜があけるじゃろうからひとまず家に帰ろう」おじいさんとおばあさんは家にかえったんじゃ。兎は、長いしっぽをしとったのが切られてしまう。うしろ足で突っ張ったもんじゃから、後ろ足がなごうなるし、みんなが耳を引っ張ったもんじゃから、うさぎの耳はなごうなったんじゃって昔こっぷりとびのくそ。山の奥へ奥へはいったら、足音がせんようになったげな。「ここからは足音が消えたが、どこへ逃げただろうか。まあ、ここの木の株に腰をかけて、ようすをみるだ」じいさんは、カチリ、カチリ、火打石を打って、たばこの火をつけて、待っていた。穴の中では獣が、「なんとムルは逃げただろうか」「さあやな。誰ぞちょっと出て見てこいや。狐お前は、ずるもんだから、出てみてこい」「いんにゃ。あの虎狼よりもきょうといムルに、なんでわしがよう出ように、狸出て見い」「いんにゃ。わしゃあ、てんでようのぞかん」兎は、ふだんみんなの馬鹿にあうものだから、この時こそと思うて、「なんと、わしがこの長い尻尾を出して振るから、もしムルがさばりついたら、みんなてごうしてごせえ」「うん、そりゃあてごうしたる。尻尾を出いて振ってみい」兎は、昔は、長い長い尻尾をしとったそうなが、その尻尾を出して、ぷりぷりっと振ったげな。じいは、馬の子が尻尾を出したぞと思うて、さばりついた。兎が、「ムルが取り付いた。みんなてごうしてくれ」というた。みんなは、さばるところがないもんだけえ、兎の耳にさばりついた。じいさんは、放いてはならん思うて、引っぱる。うちと外とで、ウン、ウン、引っぱるうちに、スポン!尻尾がむしれたげな。みたところが、馬の子ではないげな。そのうち、ちいと明るくなってきて、じいさんはもどったげな。兎は、ウンウンふんばった拍子に、後足は、長くなるし、みんなが耳を引っぱった拍子に、耳はあんなに長くなったげな。
それで昔こっぷりとびのくそ、ぴんろろう。

最終更新日: 2010年6月21日(月) 20:11 更新者: