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立石おじさん おかやまの昔話

【第93話】 田の久

昔な、あるところに、田野久兵衛という面芝居の役者がおってな、まあ、百姓が暇になると、近くや、少し遠い村々に出かけて、面芝居をして、みんなに楽しんでもろうとったんじゃな。なかなか田野久兵衛、面芝居がうまいもんじゃから、みんなから「タノキュー、タノキュー」ゆーて言われとったんじゃ。ある日、だいぶ離れた村で、面芝居をしておったところが「親か危篤じゃ」いう連絡が入った。田野久兵衛、親が危篤だと聞いたら、面芝居どころじゃない。すぐに荷物をまとめて、帰ってきたんじゃな。背中の箱の中に面や衣装を入れて、ドッドー、ドッドー、ドッドー、ドッドー走るように帰ってきた。そうして、村境の大きな峠の口まで着いたんじゃな。もう、すでに日が暮れかかっとる。そうしたら、峠の入り口の人が「旅の人よ、この峠には、化け物が出て、よー殺される、喰われてしまうと言われとんじゃ。じゃから、こんばんは、ここで泊まっていきなさい」「いやいや、うちの親が危篤なんで、急がにゃーいけんのじゃ」「急ぐゆーても自分の命には、代えられんで、まあ、泊まっていきんさい」「まあまあ、急がにゃーいけんから」田野久兵衛はな、急いで峠を登っていったんじゃな。もう峠の途中まであがったら、あたりが真っ暗になってしもうた。やっとのことで道をみながら頂上までついた。そうしたら、目の前に、頭の髪もあごのヒゲも真っ白な爺がつたっとる。「あっ、化け物が出たな」と田野久兵衛は、思うたけど、知らん顔をしてその年寄りの前を通りすぎようとしたら「こりゃあ、こりゃー、おまえは、何者なら」声をかけてきたもんじゃから「へえ、わたしゃー、たのきゅーでござんす」「たぬきじゃと。そうか、たぬきじゃったらおまえは、なんぼでも化けることができるのう。上手に化けとるが」「へえ、化けることができます。そういうおじいさんは、なんですりゃー」「わしか、わしは、この峠に住む大蛇じゃ」「あ~、それにしても上手におじいさんに化けとりますなあ」「たぬき、おまえは、何でも化けるんじゃけど、次から次に化けることができるか」「へえ、いくらでも化けることができます」「じゃあ、ひとつ、化けてみしてみー」「へえ、そりゃみしてあげましょう。じゃあ、おじいさんな、ちょっと、十数えるまで、向こうをむいとってつかあさい」爺が、十数えながら、向こうを向いた。その間に、箱の中から面をパッと出して、衣装をサッとつけて、フッと爺が見たときには、見事なお坊さんの姿になっとった。「ありゃ、りゃー、いつのまに坊主に化けたか、たいしたもんじゃな。まだ、化けることができるか」「へえ、できます。じゃあ十数える間、向こうを向いとってください。」また次の面を出して、パッとかぶって、衣装をサッと変えた。そうしたら、きれいな花魁姿になった。「ありゃあ、こりゃあ、きれいな花魁になったな。まだ化けるか」「へえ、できます」次には、立派な侍になって、爺のところにヤッーと刀を向けたんじゃ。「いやいや、たいしたもんじゃ。たぬきだけあって、たいしたもんじゃ。まだまだ、化けることができるじゃろうな」「へえ、化けることができます。だけど、今日は、これぐらいですりゃー」「そうか、だけどおまえは、それだけ化けたら、何も怖いものはなかろうな」「いやあ、怖いものはあります」「何が一番怖けりゃー」「いや、わたしが、いちばん怖いのは、山ぶき色の大判小判が一番きょうたい。これがあったら命までとられてしまいますから」「そうか」「おじいさんは、何が一番きょーといんですらー」「いや、わしは、ヘビじゃから、タバコのヤニが一番きょうーとい、もし体にタバコのヤニがついたら、わしの体は、腐って死んでしまうんじゃ」「そうかな」「じゃあ、次の晩の夕方ここにやってきて、化け方を教えてくれーよ」「へえーわかりました」そう言って田の久は、峠を降りて帰ったんじゃな。夜明けにやっと家についた。家についてみたところが危篤じゃといわれとった親もだいぶ持ち直してべつに命は異常はなかった。「あ~良かった、良かった」田の久は、ほっとしたんじゃな。それにしても峠の大蛇が出てきて、人に危害を加えとる。みんなこれだったら誰も通ることができんな。あの大蛇を退治せんといけんなといことで、すぐに村のもんに集まってもろうて、そうして、みんなに言ってタバコのヤニを集めてもろうたんじゃな。みんながキセルからタバコのヤニを集めて、大きな桶一杯のタバコのヤニが集まった。次の夕方日が暮れかかって、そのタバコのヤニを持って、峠の頂上に行ってみた。まだ、爺は出てこん。しばらく待っておると、爺が出てきた。「やあ、約束どおり来たか。今晩も化けてみしてもらわにゃあいけんな。それに化け方も教えてもらわんといけん」「おうおう、化け方を教えてあげます。じゃあ、ほんなら、ひとつ化けて見ましょう。十数える間、向こうを向いとってください」爺が、向こうを向いたときに、タバコのヤニをダーッとかけた。そうしたら「ギャー」大きな叫び声をあげて、大蛇になって林の中へ逃げていったんじゃな。田の久は、家に帰って、扉をどっこもきっちり閉めて、じっとしとった。そのうちにガタガタ、ガタガタ、ガタガターという音がして、家の周りを回っておった。どこも戸があかんので、屋根の上にガタガタしとったが、そのうちに破風から、「これでもくらえー」大判、小判をどんどんどんどん投げ入れた。田の久は、「助けてくれー、助けてくれー、きょうてー、きょうてー助けてくれー」次から次へ、大判小判を投げ込んだんじゃな。そうして、その蛇は、帰って行ったんじゃ。田の久は、その大判、小判で一生楽に暮らすことができるようになったんじゃって。昔こっぷり。

最終更新日: 2012年4月26日(木) 15:24 担当者: 中塚美佐子

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