去年の6月から倉敷市内に工房を構え創作活動を始めた田邊茉子さんというガラス作家がいます。若手美術作家を支援する今年の「I氏賞」候補にも選ばれた新人作家を紹介します。
透明な水の中を漂う物体に見えたり、今にも動き出しそうな生物に見えたり見る者の角度や時間によってさまざまに表情が変化する不思議なオブジェ・・・これが、ガラス作家田邊茉子が創り出す世界です。1983年高知県生まれの田邊茉子さんは、2002年に倉敷芸術科学大学に入学芸術学部美術工芸学科でガラス工芸を専攻します。大学卒業後、大学院に進み2011年に博士課程を修了すると、倉敷市老松町に「ガラス工房おいまつ」を開設し、創作活動をスタートさせました。田邊茉子さんが創るガラスは、用の美に富んだ器でもなく、ガラスの表面に細工を施すカットグラスでもありません。ガラスの持つ性質を利用し、外形の造形美にとらわれることなくガラスの内面に生まれる美しさを追求するものです。フュージングと呼ばれる技法から生まれる田邊茉子さんのガラスは、粘土で形を作るところから始まります。形が出来上がるると、粘土の周りに石こうを塗り固めてガラスに仕上げるための型を作ります。石こう型は、ガラスを焼くための電気炉の中に入れます。その石こう型の中に透明なガラスや、あらかじめ、板状や粒状に形作っておいた色ガラスを並べていきます。フュージングとは、「融合する」という意味で、高温で焼き付け、ガラスとガラスを溶着させる技法です。吹きガラスのように、完全に液状化させるのではなく、表面だけが溶けた状態でガラスとガラスを融合させるのです。電気炉から取り出したガラスは、石こう型からはずし、表面を磨いて完成させます。岡山県ゆかりの若手美術家の育成を目的とした「I氏賞」田邊茉子さんは、県内外の美術関係者が推薦した39人の中から今年の「I氏賞」候補10人に選ばれ、岡山市で開かれた「I氏賞選考作品展」に出品しました。残念ながら今回の「I氏賞」を受賞することはできませんでしたが、ガラス作家 田邊茉子としての歩みを進めることはできたようです。